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長崎地方裁判所 昭和40年(ワ)484号 判決 1967年6月30日

主文

被告は原告に対し金一一七万四、九四五円とこれに対する昭和四一年一月三一日から完済に至るまで年五分の金員の支払いをせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告が金二〇万円の担保を供するときは仮に執行することが出来る。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、「原告は昭和三八年一〇月一八日、被告が株式会社西日本相互銀行との間に締結した債権元本極度額一〇〇万円、利息日歩三銭四厘、損害金日歩五銭との継続的貸付契約に基づき同日右銀行から借り受けた金一〇〇万円の債務を担保するため、被告の委託により原告所有の長崎市寺町六三番地一、家屋番号同町六番木造瓦葺二階建居宅一棟、一階三八坪二階二〇坪につき根抵当権を設定し、翌一九日登記を経た。ところが被告が右銀行に対する元利金の支払いを怠つたため、同銀行から昭和三九年五月二五日原告に対し、以後被告に対する与信を打ち切るにつき被告の債務を弁済すべき旨の通知があり、また同銀行の申立てにより翌四〇年四月七日右建物について競売開始決定がなされるに至つたので、原告は物上保証人として同銀行に対し、昭和三九年八月二〇日から翌四一年一月三〇日迄の間に元利金一一五万五、一四五円を支払つて被告のために免責を得、なお避けることを得なかつた費用として前記競売手続費用金一万九、八〇〇円を昭和四〇年一〇月三〇日迄に同銀行に支払つた。

よつて原告は被告に対し、求償権の行使として右合計金一一七万四、九四五円とこれに対する免責を得た日の翌日昭和四一年一月三一日以降完済迄、民法所定年五分の遅延損害金の支払いを求める。」とのべた。

証拠(省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「被告が原告主張のように株式会社西日本相互銀行から金一〇〇万円を借り受けたとの事実は否認する。被告は、当時原告が専務取締役であつた株式会社日証の代表取締役七条一彦から、同会社が設立後日浅く、銀行から融資を受ける信用がないので資金借入のため名前丈を貸して貰いたいと再三懇願され、原告所有の担保物件もあるから迷惑をかけないとの言を信じ、被告の名で右銀行から金員を借り受けることを承諾したにすぎないのであり、勿論借入金を受領した事実もない。従つて原告主張の借入金は株式会社日証若しくはその代表取締役であつた七条が実質上の借主であり、このことは右借入金がすべて株式会社日証の運転資金として費消されていることからも明らかである。原告は右のような事情を十分承知の上、物上保証人となつたものであるから、たとい原告がその主張のような弁済をなし出費をした事実があつたとしても、すべて実質上の借主にそれを求償すべきであり、単に名義上の借主にすぎない被告には何等原告の求償に応ずべき義務はない。」とのべた。

証拠(省略)

理由

成立に争いのない甲第一号証、原本の存在と被告関係部分の成立につき争いがなく、その余の部分は証人堀川和夫の証言により成立を認め得る甲第四号証、原本の存在につき争いがなくその余の部分は同証言により成立を認め得る甲第五号証、証人堀川和夫、合志束、七条一彦、松竹サエ、柿川勇の各証言並びに原告本人尋問の結果(松竹サエ、柿川勇、原告本人の各供述中後出の措信しない部分を除く。)によると次の事実が認められる。

被告はその夫勇が昭和三七年頃長崎市江平町所在の土地の権利を廻つて第三者と紛争中、これに介入し来つた七条一彦と相知るに至り、同人はその後被告並びに勇の援助の下に株式会社日証を設立し、主として金融業を経営するうち、偶々昭和三八年一〇月頃、松竹サエがその経営する酒場を手放そうとしているのを知り、この営業権を買い受けて酒場の経営を思い立つた。然し、当時七条個人も株式会社日証も、銀行から右の買受けに要する資金の融通を受ける信用に乏しかつたので、七条は被告に相談したところ、被告も従前からの知合である七条の依頼を容れ、被告の取引先である株式会社西日本相互銀行から被告の名で七条のために金融を受けることに同意した。そこで七条は原告に対し、右のような事情から銀行の融資を受けるにつき、担保を提供されたい旨依頼し、当時七条において長崎市鳴滝町に買い受けた不動産の登記が同人の名義になり次第これと差しかえるという約定のもとに、原告から担保提供の承諾を得、かくして七条と被告は昭和三八年一〇月一八日前記銀行大波止支店に赴き、原告所有不動産を担保として被告を主債務者、原告と七条を連帯保証人とする原告主張のような貸付契約を同銀行と締結し、被告の名で金一〇〇万円を借り受け、七条においてこれを松竹に支払つて酒場の経営権を買い受けるに至つたものであり、なお銀行は同月一九日原告主張の家屋に根抵当権の設定を受けたものである。

証人阿南豊、柿川勇、松竹サエの各証言、原被告各本人尋問の結果のうち右認定に抵触する部分は前顕各証拠に照らし措信せず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定したところによると、被告は七条個人が酒場の経営権を買い受ける費用として、同人のために銀行から金一〇〇万円を借り受けたものであり、原告はこの一〇〇万円につき連帯保証人となり、自己の所有家屋に銀行に対する根抵当権を設定したことが明らかであるから、右一〇〇万円について被告と七条の間で何れが支払いの責に任ずべきかは別として、被告は少なくとも原告が銀行に対する右債務を弁済した場合、同人の求償に応ずべき義務があることはいうまでもない。

尤も証人柿川勇の証言により真正に成立したものと認められる乙第二、三号証によると、被告の夫である同人は昭和三八年一〇月一八日現在、右銀行に対し五〇〇万円余りの預金を有していたことが認められるので、同人の証言するように、若し同人の妻である被告が本件一〇〇万円の実質上の借主であるならば右預金を担保にすれば十分で、敢えて原告に担保を提供させる必要はない筈であり、また成立に争いのない乙第一号証によると、原告は七条を代表取締役とする株式会社日証の取締役であつたのであるから、これらの点から考えると、原告がその所有家屋を担保として提供したことは即ち被告の主張が真実であることを示すかの如くである。然し、成立に争いのない乙第四、五号証と証人合志束の証言によると、昭和三八年一〇月一八日当時、被告は前記銀行に対し、本件借入金を除いて右預金を上廻る金六〇〇万円の債務を負担していたこと、銀行は借入金一〇〇万円の使途の性質上、その回収が後れるのを慮つて特に担保物件を要求したものであることが認められ、また右一〇〇万円は前認定のように七条個人の用途に費消されたにすぎないから、乙第二、三号証並びに原告が株式会社日証の取締役であつたとの事実は何等被告の主張を裏づけるに足りない。そして証人堀川和夫の証言により真正に成立したと認められる甲第二、三号証(但し郵便官署作成部分の成立は争いがない。)、甲第八、九号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一〇乃至一二号証によれば、原告は銀行から、被告の債務不履行のため与信を打ち切つたので借入金一〇〇万円を弁済するよう通知を受け、昭和三九年八月二〇日から同四一年一月三〇日迄の間に、銀行に対し元利合計金一一五万五、一四五円を弁済し、また銀行の申立てにより、原告所有の前記担保物件について開始された競売手続の費用金一万九、八〇〇円を昭和四〇年一〇月三〇日迄に銀行に対し支払つたことが明らかである。

従つて一〇〇万円借受けに至るまでの前認定の経緯から、原告が連帯保証人兼担保提供者となるについては債務者被告の委託を受けたと見られる本件において、被告は原告に対し、原告の右弁済により免責を得た金一一五万五、一四五円とこれに対する免責を得た日の翌日である昭和四一年一月三一日から完済迄民法所定年五分の利息金、並びに、原告が避けることを得なかつた費用として支払つた銀行の競売手続費用金一万九、八〇〇円とこれに対する本件訴状送達の翌日であることが明らかな昭和四〇年一二月六日から完済迄同様年五分の損害金を支払うべき義務がある。

よつて被告に対し右一一五万五、一四五円と一万九、八〇〇円の合計金一一七万四、九四五円とこれに対する昭和四一年一月三一日以降完済迄年五分の金員の支払いを求める原告の本訴請求は正当として認容すべきものとし、民事訴訟法第八九条、第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

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